島ひろみ
この人はラジオのアナウンサーだったので知名度はそれほど高くないが、実況はすこぶるうまかった。また、野球に対する知識も鬼だった。なにせ創刊以来のベースボールマガジンを全部持っていたというのだから。
この人も読売べったりの実況なのだが、野球に対する知識の裏付けがあった人なので全然腹は立たなかった。「心から巨人を愛している」というのが伝わって、むしろ好感すら持っていた。
読売の札幌シリーズがデーゲーム行われていた頃、ラジオニッポンが独占中継をしていた。1986年のヤクルト帯同シリーズの第3戦を途中まで聴いていたのだが、どうしても教職の授業に出ざるを得なく、試合途中でラジオを聴けなくなった。その試合の実況は島アナだった。
ラジオを聴くのを止めた時点で読売がリードしていたが、授業が終わってラジオのスイッチを入れたら、ラジオから実況が聞こえてこない。「あれ? 放送事故か?」と思っていたら、ちょうどその直前、リリーフに出た角がマルカーノに痛恨の同点ツーランを食らっていたのであった。
それで島アナも解説者の中村稔氏も、そして観客も氷ついていたのだ。しばらくして、おもむろに島アナが死にそうな声で、「中村さぁぁぁん、今のはどういう球だったんですかぁ?」と言うのを聞いて、初めて状況が理解できた。つまり、島アナは実況という自分の仕事を忘れるほどショックを受けていたのである。
当時、ラジオニッポンでは夕方から昼間の試合を録音放送していたのだが、家に帰ってその問題のシーンを聴いて爆笑したのであった。
その島アナも鬼籍に入っている。もっとその実況を聴きたかったものである。