知らねぇって
火曜にわしが休んでいるとは知る由もないアホ後輩の携帯に、自宅の電話からかけてみた。
そしたら、野郎はすぐに出た。出るなり、「いやあ、こっちからしようと思っていたんだよ」と切り出してきた。
わし:ん? どういう風の吹き回しだ? お前、俺からの電話、ずっとネグレクトしていたろ。
野郎:まあまあ。実はさ、まずいことになったんだよね。
わし:どうしたんだよ? まだ月末じゃねぇぞ。
野郎:先週の水曜日さ、仕事終わってから、××ちゃんの家へ強引に行ったんだよね。
わし:それで?
野郎:その日さ、お店に出る日だったんだよね。それで、家にいる時にお店からガンガン電話かかってきてさ。
わし:そらそうだろ。
野郎:だけど、「絶対に電話に出るな」って言ったんだよ。
わし:それで、その日、出勤しなかったのか?
野郎:うん。だけど、そういうことって、今回が初めてじゃなくて、よくやってたんだよ。
わし:ホントかよ。
野郎:それで、クビになっちゃったんだよ。
わし:(吹き出しそうになりながら)そりゃ、しょうがねぇわな。
野郎:それで、どうしようかと思ってさ。半分は俺に責任があるわけだし。
わし:そうだな。仕事見つけなきゃ、どうにもならんだろ。
野郎:そうなんだよ。下手したらもっとお手当て出せと言われそうでさ。
わし:でも、もうこれ以上出せんだろ。
野郎:そりゃ、そうだよ。だからさ、キムラさんにいいお店、紹介してもらおうと思ってさ。
わし:俺は風俗ブローカーじゃねぇ。知らんよ、そんなこと言われても。
野郎:いやいや、今までキムラさんが行ったところで、しっかりしてそうなところ教えてくれない?
わし:だぁら、店の労働条件までは知らねぇって。
野郎:そうじゃなくて、健全そうなところ教えてよ。
わし:健全なところなんてねぇよ。
野郎:あ、お得意さんからキャッチが入った。また後で電話するよ。
そこで電話は切れた。ったく、しょうがねぇ奴だ。しかし、なんで、わしが奴の愛人にキムラ店を紹介せにゃならんわけ?
で、午後からばあさんを見舞いに行った時に、野郎から電話が入った。
しまった。病院では携帯を切っておかねばならんかったのを忘れていた。さすがに病室でそんな話はできないから、「また夜にでもかけてこいよ」とすぐに切った。
心当たりがないわけではないが、トラブルとかになったらハガいしな。やっぱ電話するんじゃなかったわい。
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