俺は付け人じゃねぇ

　オヤジを裏切るわしではない。降り続く雨もなんのその、約束通りチャーハン＆ギョーザを食いに行ってきた。 　

　昨日は中華飯店でちょっとした会合があって、珍しく酒を飲んだのであるが（といってもカルピスサワー２杯）、翌日に備え、あえてチャーハンもギョーザも注文せんかった。それほど今日に賭けていたのである。 　

　さすがに今日はオヤジもギョーザの準備をしていた。そして、わしが約束を違えずにきたことが嬉しかったのか、わしになんだかんだと話し掛けててきた。そこまでは良かったのだが…。 　

　わしのチャーハンとギョーザができたのに少し遅れて、隣のおっさんの塩野菜ラーメンも出来あがった。そしたら、そのおっさん、ラーメンに酢を入れやがってぇ。わしは酢の匂いが死ぬほど嫌いなのだよ。

　しかも、おっさんが酢を入れた瞬間に、別のおっさんが店に入ってきたせいで、空気が動いて、モロに酢の匂いがこちらに漂ってきたというハガさ。その瞬間、思い切り顔が歪んだ。

※わしは、冷やし中華の季節になると、中華そば屋から姿を消すことにしている。もちろん、酢の匂いが嫌だからである。ただし、冷やし中華がメニューにない信玄亭は例外。いうまでもないが、ギョーザはラー油と醤油だだけで食べる。 　

　そして、店に入ってきたばかりのおっさんは、席に着くや否や、トイレの在りかをオヤジに尋ねた。オヤジは、「トイレはカウンターの奥ね」と、相変わらずのタメ口で答えた。なお、トイレの位置は以下である。
　　　　　　　　　
　　　調理場　　　
　　　　　　　　カウンター
　　　　　　　　　 ↓　　　　　　　×入り口
　◎　　○　　▲　　

　◎…トイレ　　○…わし　　▲…野菜塩ラーメンを頼んだおっさん

※席順からして、入り口が開くと酢の匂いがわしの方に来るのがわかろう。 圧力の関係で、風は寒い方から暖かい方に流れるのだ。

　で、トイレに向かったおっさんの動きが止まった。なんと、トイレの前にオヤジの荷物が積んであったからである。「そんなもん、トイレの前に置いとくなよ」と横目で荷物を見ながら、箸を進めていたわしであったが…。

　そしたら、オヤジがやぶからぼうに、「お兄さん、悪いね。ちょっと荷物、どけてくれる？」と、メシを食っているわしに頼みくさった。

　なぬ？　俺は、あんたの付け人じゃねぇ。そんなもん、あんたがやれよ。

　そこで、オヤジの頼みを聞いてやるところがわしの甘さ。それでオヤジも悪いと思ったのか、チャーハンとギョーザで1050円のところ、1000円にしてくれた。まあ、それならいいか。

　なんだかんだで、今日でまたオヤジとの距離が縮まった気がする。でも、別にうれしかねぇ。