絶望の張り紙

 
 女に振られた日の翌日のような気分だ。

 しかし、気力を振り絞って1本早い電車に乗って、信玄亭の遺体を見に行った。

 信玄亭の死を信じたくなかったが、
「15日をもって、‘しんげん’を閉めることになりました。長い間のご愛顧、ありがとうございました」の張り紙で、一縷の望みが絶たれた。

 わしは、その張り紙を見るまで、まだシャミをひかれていることに期待していたのだが…。

 その張り紙を見て、雨の中、わしはしばし動けなかった。
白新学院がナゾの1点で明訓に敗れた時、不知火はしばし動かなかったというが、その気持ちがよくわかった。

 そういや、昨日、オヤジは、山ちゃんに、
「これが最後の酒だよ」と言って、日本酒をついでいたな。それと、「俺、50だけどさ、共産党で雇ってくんないかな」と言っていたような気がする。そんなもん、冗談だと思って聞き流していたのだが…。

 しかし、信玄オヤジ、これから先、どうやって生きていくのだろうか? あの不思議獣を採用する酔狂なラーメン屋があるとは考えられない。かといって、30年以上ラーメン屋のオヤジをやってきた人間がラーメンを打つ以外に何かできるとは思えん。

「根こそぎフランケン」で、田村は、竹井に3度目の敗北を喫した後、また麻雀を打ちに岡田のマンションに来た。岡田に、「お前も懲りないね」と言われた田村は、「ほかに何ができる」と言っていたが、お前はまだ20代だろ。若いみそらで、何、言ってんだ。麻雀以外にできることがないって、Xと同じじゃないか。

 クソ〜、こうなることがわかっていたなら、昨日、生姜焼きライスなんかにするんじゃなかった。他では絶対に食べられない信玄ラーメンにしておくんだった。

 
わしは、今の今も、信玄亭での日々が過去になったことを受け入れられん…。


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