1976年

・夏の大会

 
大波乱続出の大会

 春夏連覇を狙う崇徳は広島大会を圧倒的な強さで制し、勇躍甲子園に乗り込んできた。また、好投手・久保、一発長打の立花、強打の末次などを持ち、超Aクラスの戦力を持つ柳川商も出場を決めた。そして、原・津末らを擁し、大人の打線と言われた東海大相模も満を持して甲子園にやってきた。

 そのほか、毎試合奪三振ショーを演じ、地方大会の話題を独占した剛速球の酒井、沖縄の星・赤嶺、選抜の雪辱に燃える剛球左腕・戸田らも甲子園に登場することとなった。まさに多士済々。当時の朝日新聞にも、「これだけ大型の選手が揃うのは珍しい」とある。

 こうして迎えた今大会の優勝候補の筆頭は春夏連覇を狙う崇徳。続いて、招待試合で崇徳や東海大相模にも勝ち、春に36連勝をした柳川商。2強を追うのが猛打の東海大相模。しかし、強打を誇るこれら3チームがいずれも0−1で敗れるとは、大会前誰が予想しただろうか?

 まず最初に姿を消したのは東海大相模である。1回戦を津末の2ホーマーなどで快勝した東海大相模の2回戦の相手は選抜準優勝の小山。小山も好チームであったが、エース初見が故障しており、東海大相模絶対有利の声の中で試合が始まった。

 小山のマウンドは、普段はセンターを守る黒田。急造投手の黒田は果たして何回持つかと言われたが、いろんな投球フォームからコーナーぎりぎりにカーブ、シュートを投げ、東海大相模打線を翻弄した。実況の土門アナは、「まるで何人もの投手が投げているようです」と、その黒田の投球を表現した。

 0−0で進んだ試合は、7回表に村中の暴投により小山が1点を先取。そして、9回裏東海大相模の攻撃もツーアウト・ランナーなし。ここで、バッターは原。同点ホーマーの期待も空しく、原はあっさりサードゴロに倒れ(しかし、ホントに勝負弱い)、原の甲子園はここに終わったのであった。

 次に敗退したのが柳川商であった。柳川商は新チーム結成以来、85勝2敗と無敵の強さを誇る大型チームであった。しかし、3回戦のPL戦では大型チーム特有のモロさを露呈してしまった。

 3回表にエース久保の2つの牽制悪送球から1点を先取される。その後、4回裏のノーアウト1、3塁のチャンスを逃すと回を追うごとに打線が焦り出し、PL・中村の低めに集まる投球に抑え込まれていった。結局、3回表の1点が致命傷となり、まれに見る大型チームと言われた柳川商は、ベスト8にも進出できずに敗退してしまったのである。

 崇徳の敗戦も不運が重なった結果であった。まず、緒戦の東海大四戦からして波乱ぶくみであった。エース・黒田が試合前に39℃の熱を出し、先発できなかったのである。2年生ピッチャーが打たれ出すと黒田がマウンドにあがったが、解熱剤で押さえていた熱がすぐにぶり返し、「このまま投げ続けると生命が危ない」とドクターストップがかかった。そのため、一度も登板したことがないファーストの兼光がマウンドに上がることになった。

 兼光は打たれながらもなんとか要所を締めたが、2点崇徳リードで迎えた9回表、ツーアウト満塁のピンチを迎える。ここでライト線へ際どい当たりが飛んだ。逆転のツーベースかと思われたが、ぎりぎりファール。最後は渾身の力で三振を奪ったが、その瞬間心底ホっとした感じの兼光の表情はいまだに記憶に残っている。

 崇徳が迎えた次の相手は、剛速球・酒井の海星。この試合、エース黒田も復調し、黒田と酒井の対決、そして、崇徳の大型打線と酒井に注目が集まった。試合は両投手の好投で6回まで0−0。とくに黒田は1安打ピッチングを展開。

 しかし、7回になると、高熱の余波か疲れが出始め2安打され、ツーアウト1、3塁のピンチを迎えた。ここで、俊足の左打者・古川が放った打球は3塁前にボテボテのゴロ。黒田と応武が一瞬譲りあったのが命取りになり、俊足の古川が1塁ベースを駆け抜けた。結局、この1点が決勝点になった。つまり、ボテボテの内野安打が崇徳の春夏連覇を阻んだのである。

 この試合、酒井の出来が最高であったことも、崇徳にとっては不運であった。後にキャプテンの山崎(現広島コーチ)が、「黒田も凄かったけど、酒井の球は異常でした」と振り返っている。

 ところで、選抜でその大言壮語で大会関係者および全国のファンの怒りを買った崇徳のじじい監督は、春の招待試合中に倒れ、他の監督に交代していた。じじい監督は倒れたのではなく、広商OBなどうるさ型が多い広島県高校野球連盟の圧力で降板させられたという説もある。

 その後、小山は赤嶺の好投の前に敗れ、海星の酒井はPLの前に屈した。また、戸田は選抜の借りを返そうという力みから市神港戦で乱調をきたし、初戦で姿を消していた。

 こうして決勝戦は、西東京代表の桜美林とPLという思いがけないカードとなった。両者とも大会前の評価は低く(というより3強の評判があまりにも高かった)、とくに桜美林の決勝進出は奇跡的とさえ言われた。

 試合は3−3で延長戦に入り、10回裏代打の菊地太陽のサヨナラツーベスが出て、桜美林が初出場初優勝を決めた(菊地太陽はその一打で全日本チームに選抜された)。記憶に残るのは、桜美林の校歌の「YES、YES、YESと叫ぼうよ〜」という歌詞である。


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