西ドイツ、オーストリア両国は、スペインワールドカップのヨーロッパ予選で同組となった。
当時の西ドイツはヨーロッパ最強を誇り、ホームでは4−0、アウェイでも2−1でオーストリアを連破した。しかし、オーストリアも西ドイツに敗れた以外は順調に白星を重ね、予選2位で本選出場を果たした。
そして、両者はスペインワールドカップの一次リーグにおいても同じ組に属したのであった。
他に同居したのはアルジェリアとチリ。よって、この組の下馬評は、西ドイツは別格、アルジェリアは完全なアウトサイダー、2位をオーストリアとチリで争うというものであった。
しかし、フタを開けると、初戦で西ドイツがアルジェリアに1−2でまさかの敗戦。これは現在においても史上最大の番狂わせとされ、他会場にこの速報が流れた時は、試合そっちのけで大騒ぎになった。
この西ドイツのまさかの敗北が史上最悪の談合試合の引き金となったのである。
一方、オーストリアはチリに1−0で勝利という無難なスタートを切った。
一次リーグ第2戦は、尻に火がついた西ドイツがルンメニゲのハットトリックなどで4−1とチリを圧倒。オーストリアもアルジェリアを2−0で退けた。
よって、2試合が終わった時点で、オーストリアが2勝、西ドイツとアルジェリアが1勝1敗。西ドイツとアルジェリアは、西ドイツが得失点差で優位に立っていた。
ここで、またまた日程の不備が問題となった。というのも、一次リーグ最終戦の西ドイツ−オーストリア、アルジェリア−チリが同時刻に行わず、アルジェリア−チリが西ドイツ−オーストリアの前日に行われることになっていたからである。
すなわち、西ドイツとオーストリアは、アルジェリアの結果を見てから戦えたのであった。
先にキックオフされたアルジェリア−チリは前半アルジェリアが3点先行したが、チリも意地を見せ、後半に2点を返したものの、アルジェリアが3−2で勝ち、2勝目を挙げた。
もし前半のまま3点差でアルジェリアが勝てば大変なことになっていたが、アルジェリアの勝利が1点差に終わったため、西ドイツは勝てば1位で二次リーグへ進出、オーストリアも、得失点の換算から負けても3点差以上をつけられなければ二次リーグ進出ということになった。
西ドイツ−オーストリアは、前半7分、巨漢FWのルベッシュが得意のヘッドで西ドイツが先制。
これでこの試合の先行きは見えたも同然であった。このまま無事83分流れれば、両国は揃って二次リーグに進出できるのだから。
その後、両チームは全く攻める姿勢を見せず、ただボールを回しているだけ。
ヒホンの競技場は大ブーイングに包まれた。しかし、両チームイレブンはいさい構わず、ただただ時間稼ぎに終始した。この試合はNHKでも実況中継されたが、両チームの無気力ぶりは本当に酷いものであった。
これが西ドイツ戦に闘志を剥き出しにしたオーストリアとはとても信じられなかった。
結局、そのまま1−0でタイムアップし、談合試合といってもいい内容でアルジェリアが蹴落されたのであった。
翌日のスペインの新聞に、西ドイツとオーストリアがゴミ箱に捨てられている風刺画が載せられるなど、この試合は様々な論議を呼んだ。
そして、前回のアルゼンチン−ペルーの片八百長試合がありながら、またしてもリーグ戦の最終戦を同時刻に設定しなかったFIFAにも非難が集中した。しかし、これが是正されたのは、90年のイタリア大会からであった。
当然、アルジェリアサッカー協会は、「無気力試合ではないか」とFIFAに提訴したが、「疑わしいが、証拠がない」と却下されてしまった。
FIFAに却下されたものの、この西ドイツ−オーストリアは、史上最悪の談合試合として大会に大きな汚点を残したのであった。
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