「虎の穴」の処刑
今日は、1つ告白をしたい。高校生の時でさえ、「『虎の穴』の処刑」は、怖くて見ることができなかったと。
本放送の時は、「死闘のタッグ」で大門がビッグタイガーとブラックタイガーに挟撃された場面を正視できなかった。それほど、この2エピソードは刺激が強い。
今では、この2エピソードと、タイガー・ザ・グレイトとの死を賭けた戦いのラスト2話は、絶対に放送禁止だろうな。
もっとも、今の放送スタッフに、これだけの作品を作る才能も気概もあろうはずがない。
「『虎の穴』の処刑」は、大門亡き後、タイガーの右腕に成長した高岡拳太郎が虎の穴のボスに処刑されるエピソードである。高岡拳太郎がどれほどの好漢かを知っている視聴者にとって、このエピソードは強烈過ぎる。
虎の穴のボスは、ミラクル3として、その3つの奇跡のうちの2つ、力と技を、外国人レスラー相手に、タイガーと拳太郎に見せつけてきた。そして、もう1つの奇跡を拳太郎との対戦で披露する腹づもりだったのだ。
そのもう1つの奇跡は、言わずと知れた反則である。それを察知していたタイガーは、ミラクル3が拳太郎に挑戦してくることを恐れていた。それがエピソード前半にちりばめられている。
練習場にいるタイガーにジャイアント馬場が話し掛けるところから、「『虎の穴』の処刑」は始まる。
馬場:タイガー、聞いたか?
タイガー:え? 何をです?
馬場:ミラクル3のことだよ。
タイガー:ミラクル3?
馬場:挑戦してきたんだよ、高岡に。
タイガー:ケンに?
馬場:ああ。ついさきほどミスターXがここに来て、直接、高岡に申し入れたんだ。
タイガー:それで、ケンは挑戦を受けたんですか?
馬場:もちろん。
タイガー:なに? 受けた!
そこで、ラッパが奏でる悲愴な効果音をバックに、「『虎の穴』の処刑」のタイトルが回転しながら、画面にオーバーラップする。この導入部といい、脚本力といい、見事としか言い様がない。
以下で、「平成虎の穴」の筆者の解説を引用したい。筆力では、わしは「平成虎の穴」の筆者の足元にも及ばないのでな。
「ミラクル3がケン高岡への挑戦を表明した。
今のケンではミラクル3には歯が立つまいと感じているタイガーは動揺を隠せぬが、そうかと言って忠告を素直に聞くケンではない。
事実ケンは、大門の墓前に赴き、ミラクル3との戦いに向けた決意を誓っていた。
「犬死にだけはするな」という直人に、「タイガーさんや大門さんに恥ずかしくないファイトをしてみせます!」とケン。
遂にリング上で対峙したミラクル3とケン。
その瞬間、身をひるがえしたミラクル3。
脱ぎ去ったコスチュームの下から現われたのは、全く別の姿だった。全身灰色で虎のマスク、胸にはドクロと短剣のマーク――。
不気味な雰囲気に包まれた彼は、『たった今から私のリングネームは、タイガー・ザ・グレイトだ!』と高らかに宣言した。
その言葉を聞いたタイガーは、この男こそ虎の穴最強のレスラーであることを改めて確信した」
この回のエピソードは、演出も練りに練られている。リング上で対峙するグレイトとケンの姿が、ミスターXの片眼鏡のレンズに映し出されるのである。言ってみれば、本栖湖の逆さ富士か。
ここで、また「平成虎の穴」の筆者の解説を拝借する。
「あまりの急展開に、呆気に取られるケンやレフェリー。
しかし、セコンドに付いたタイガーだけは、さすが冷静にこの事態を受け止めていた。
「遂に正体を現したか、虎の穴のレスラーめ!」
「タイガー・ザ・グレイト! すると奴は、キング・タイガー以上のレスラー! おそらく虎の穴が送り込んだ最後の、そして最強のレスラーにちがいない!」
こういうセリフを聞くたびに、見ている我々も、興奮のボルテージをガンガンに高めてゆく!
「まもなく鳴るゴングは、虎の穴の裏切り者、貴様たちを地獄へ送る弔鐘となるのだ」
相変わらず虎の威を借る狐とはいえ、自信みなぎるミスターXのセリフも不安を掻き立てる。
試合が開始された。――
いや、これはもう試合などではない。リンチ。一方的なリンチである。
はやるケンをしり目に、腕組みして仁王立ちする姿はまさに大魔神の様相。
いざ攻撃が始まれば、急所へのヒザ蹴り、ロープを使った股間攻撃。ガキーンと激突音も恐ろしいジャイアント・スイングでコーナーポストに足を激突。ゴシュゴシュッと鈍い音を伴うロープの摩擦を利用した目潰し。ドテッ腹へのボディブロー連打。
常軌を逸した血みどろの描写に、とてもアニメ作品とは思えぬ迫力が全開だ。
さすが“最後の奇跡”として封印され続けて来たグレイトの反則攻撃は、並大抵のものではなかった」
女子供は、途中からテレビを正視できなくなるはず。高校生だったわしですら、そうだったのだから。
グレイトの奇跡の反則攻撃の前に、ケンはもう立てない状況にまでなった。
そこでミスターXが、「フフッ。タイガー、思い知るがいい。お前が両腕と頼みとする大門とケンの2人。大門大吾は既に死に、残る高岡は風前の灯だ。虎の穴の裏切り者め、思い知るがいい」と言うセリフが奮っている。
いやはや、この脚本力の前には脱帽の2文字しかない。
だいたい、「弔鐘」なんて、子供には通じんよ。わしも、「弔鐘」という語彙をミスターXに身につけさせてもらった。
さて、試合だが、勝敗は明らかにもかかわらず、ロープ際での背骨折りでグレイトはとどめを図る。見るに見かねたセコンドのタイガーが止めに入って、ようやく惨劇が終わった。
タイガーが制止したことで、どれだけの視聴者がホッとしたか、想像もつかない。
最後にグレイトがタイガーを挑発する。
「タイガーよ! 次はいよいよお前の番だ。お前の処刑は……死だ! お前の流す血でマットを真紅に染めてやるぞ。真紅に染めてやるぞ」
始まりから終わりまで、何から何まで隙のない作品とは、この「『虎の穴』の処刑」のことを言うのだろう。
先に、「脚本と演出が素晴らしい」と書いたが、声優陣のうまさも文句のつけようがない。
ケンの声を担当しているのは田中亮一である。田中亮一は、デビルマンの声も演じた。熱い若者の声に、これほどマッチする声優もいないと思われる。
その田中亮一が後年、ドラえもんで、のび太の通う小学校の冴えない担任の声で出演していたのを知って、まじで吐いた。ケンやデビルマンとは、あまりにキャラが違い過ぎだ。
ちなみに、ジャイアンの声の担当は、大門の声を担当していた立壁和也である。ドラえもんで、大門とケンが再会とは、何という因縁か。
今日の日記を書くのに、「『虎の穴』の処刑」を何度も見たことで、頭がイカれている。相撲のことに触れる余裕がねぇ。
こんなんで、明日からの5日間に耐えられるか? その自信はナッシングだ…。
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