世界の国歌
サッカーの国際試合やボクシングの世界タイトルマッチの際に吹奏される国歌。試合の前の国歌吹奏でいやがおうにも雰囲気は盛り上がる。世界タイトルマッチ前やサッカーの国際試合前の国歌吹奏には毎回しびれてしまう。
国歌吹奏時の時の選手の様子は様々である。じっと目を閉じている選手、大声で歌う選手、胸に手を当てている選手、シャドーボクシングをしている選手…。その所作は千差万別であるが、それぞれが選ばれた男の誇りを感じているだろう。彼らは男冥利に尽きるとつくづく思う。
国歌はその国を象徴するものなので、その国を代表する音楽家が作っている場合が多い。インドの国歌は、インド最大の音楽家といわれるタゴールが作詞・作曲を担当している。また、ドイツの国歌はハイドンの交響曲の一部を流用したものである。
そして、国歌はその国の民族性によって旋律が異なる。ゲルマン系の国歌は落ち着いた荘厳な感じのものが多い。ドイツ、スウェーデン、オランダなどはその代表例といえよう。
ラテン系の国歌は、イタリア、スペイン、メキシコ、パナマ、メキシコなど、アップテンポの勇壮な旋律なものがほとんどである。中でも、フランスの国歌はその歌詞が過激なことで知られる(*)。
また、国家が幾度となくオスマン=トルコなどの侵略を受けた歴史から、スラブ系の国歌にはもの悲しい情感あふれるものが少なくない。ブルガリアやハンガリーなどの国歌は聞く者をたそがれさせてしまう。
国歌の中でも異質なのはイスラエル国歌である。鎮魂歌のようなその曲は聴いていると涙が出そうになる。
数ある国歌の中でも音楽的に最も素晴らしいものの一つであるのがロシアの国歌である。現在のロシア国歌は、ソ連時代の国歌を用いている。ソ連消滅とともにソ連国歌も歴史の遺物になり、ロシア政府は独自の国歌を取り入れた。しかし、強いロシアを目指すプーチン大統領が国民に人気があって、冷戦時代の象徴であった旧ソ連の国歌をロシアの国歌として復活させたのである。
*モスクワオリンピックでの国歌斉唱時におけるブレジネフの怖い顔と、影に寄り添うようにしていたアンドロポフの姿は印象的だった。
冷戦時代のオリンピックで鉄面皮のようなソ連の選手も金メダルを取り、表彰式でソビエト国歌が流れると一滴の涙を流したものであった。それを見て、「ああ、彼らも人間だったんだな」と、妙に安心した記憶がある。
その昔、世界の国歌のCDを買い求めに池袋の西武デパートに行ったことがある。あいにくなかったので、注文だけして、後日取りに行った。それで申し込み書の控えをレジの姉ちゃんに見せたら、姉ちゃんは、「いやだぁ」と手を打ってしゃがみ込んだ。「店長出せ」になってもおかしくないが、その姉ちゃんがかわいかったから笑いを取ったことで逆に喜んでしまった。しかし、「世界の国歌」のCDって、そんなに変?
*フランス国歌歌詞
「行け! 祖国の国民、時こそ至れり! 正義の我らに旗は翻る〜。
聞かずや〜。野に山に、敵の叫ぶを〜。悪魔のごとく、敵は血に飢えたり。
立て、国民! いざ、矛取れ! 進め! 進め!
敵の血が田畑を染めるまで」