最もショックだった試合


 これまで見た試合で最もショックだったのは、1983年夏の大会の池田―PLである。

 「取材の連続で練習にならなかった」と、後に当時のキャプテンの江上は言ってほど、 史上初の3連覇が掛かっていた池田の人気は凄まじかった。

 かくいう自分も、池田の豪快なバッティング、蔦監督の無骨ぶり、そして池田が片田舎のチームであることが好きで、熱狂的な池田高校のファンであった。一方、露骨な選手集めやその応援スタイルが嫌で、PLは全国で一番嫌いな高校であった。

 その大会のPLは投打の主軸が1年生であり、前評判はあまり高くなかった。しかし、PLは自分にとって最も怖いチームであり、「池田の3連覇を阻むのはPLかもしれない」と嫌な予感が大会前からしていた。だから、池田とやる前に他のチームがPLを倒してくれないかなと思っていたのだが…。

 いざ大会が始まると、1年生ピッチャーの桑田は切れ味のいい球を投げ、同じ1年の清原は不発であったが、PL打線は凄まじい破壊力を発揮し、PLはダークホースとして注目を集めるようになった。そして、準々決勝に進出した頃には当たるべからざる勢いとなっていた。

 一方、池田も順調に勝ち進み、準々決勝の第1試合で最大の難敵とされた中京を大激戦の末下し、いち早く準決勝に進出を決めた。

 そして、準々決勝の第1試合が終わった後の抽選で池田は、PL−高知商の勝者と準決勝で対決することが決まったのである。この時、ついに来るべき時が来たと思った。というのも、PLと高知商は実力互角と言われていたが、自分は間違いなくPLが勝つと思っていたからだ。

 果たして、PL打線は高知商の好投手・津野をいとも簡単に打ち込んだ。高知商の谷脇監督も、「津野の調子は良かったのに…」と、PL打線に脱帽していたくらい、PLの打線は勢いに乗っていたのだった。

 試合そのものは、マウンドに指を当てて本来のピッチングが出来なかった桑田の乱調もあって10−9という結果になったが、PLの完勝に近い内容であった。そして、試合後のインタビューでPLの中村監督の、「明日は挑戦者の気持ちでやりますよ」という言葉が無気味に響いた。

 ついに迎えた準決勝第1試合。この試合の前ほど緊張したことはなかっただろう。「PLのピッチャーは西川でも榎田でもない。小早川や吉村もいないじゃないか」と自分に言い聞かせても、全く落ち着かない。おそらく本能的に何を感じていたのだろう。

 試合は、1回表池田が江上、水野の連打でツーアウトながらチャンスを迎えた。ここで、5番の吉田がピッチャー返しの強烈な打球。しかし、その誰もがセンター前に抜けたと思ったゴロを桑田がさばき、池田がチャンスを逃してしまった。このプレーは、天才野球少年・桑田ならではプレーであったといえよう。

 迎えた2回裏。PLは1塁に四球のランナーをおいて、バッターは7番・小島。カウント2−1から見事なスライダーが外角に決まり、審判の手が上がりかけたが、結局はボールのコール。これにマウンドの水野の顔色がサっと変わった。それはテレビで見ても完全に見てとれた。

 そして、次に投げた外角のストレートを右中間に運ばれ、1点をPLに先取される。いつもなら詰まらせていたであろう水野の外角のストレートであるが、前日の中京戦の疲れや広島商戦で受けた死球の後遺症のせいか、いつもの球威がなかったようだ。

 さらに、次の打者桑田には、2−0から投げた釣り球のボール球を狙い打たれ、レフトへ大ホーマーを食らった(打たれた瞬間、「うわ〜」と言う声が出てしまった)。さらに続く住田にも、2−0から三振に取りにいったスライダーが甘く入り、連続ホーマーされたのであった。この時は、ただ「ゲぇぇ」という言葉しか出なかった。

 この2回の4点に池田ナインは激しく動揺した。蔦監督は「ちょっと水野が打たれたくらいで動揺しおって」と怒ったが、ちょっとどころじゃねぇ。普段打たれたことがない水野が打たれたことは、池田ナインには相当なショックだったであろう。単なるファンである自分でさえ、口の中がカラカラだったのだから。

 一方、焦る池田打線は桑田の術中に落ち、フワリと落ちてくるカーブにタイミングが合わず、伸びのある速球に詰まらされるという悪循環。その間、PLは着々と得点を重ねる。池田はチャンスで再三併殺網にかかり、鋭い打球はPL外野陣のファインプレーに阻まれるという最悪の展開となった。結局、0−7で池田はPLに屈し、3連覇は夢と消えた。

 この試合、池田が負けたことも大ショックであったが、その相手がPLだったこと、そして0−7というスコアがより以上にショックで、現実をなかなか受け入れられなかった。

 前年は早稲田実の荒木を完膚なきまでに叩きのめした日に、今度は自分らが全身に矢を浴びて敗退するとは…。皮肉としか言いようがなかった。

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