人生を賭けた瞬間


 これは、今から20年ほど前の話である。大事な待ち合わせがあって当地に約15分前に着いたのだが、その瞬間クソが衝動的にしたくなったのだ。

 その時は一刻の猶予もなく、速攻で待ち合わせ場所の近くにあった大きな本屋のトイレにダッシュした。しかし、誰かがクソをしていてアウト。いつもなら多少待つのだが、その時はKO寸前だったからそんな余裕はまったくなく、脂汗が出てきた。

 
ここはしょうがない。窮余の策で隣りの女子便所に駆け込んだ。それでなんとかKOは免れたが、出ようとした時、誰かが入ってきた。やばい。そこにはトイレが1つしかない…。

 こうなったら10分ほどここで粘って、外にいる奴があきらめて去るのを待つしかないと腹をくくった。しかし、一向に相手は去る様子がない。

 「頼む、早くあきらめて出ていってくれ。」と念じるが、相手も洗面器から顔を上げない。そして、待ち合わせ時間が刻々と迫ってきた。待ち合わせ時間まで残り2分…。


 ここで意を決した。猛ダッシュで出て、逃げようと。もしそこで相手にキャーと大声をあげられ、警備員などが駆けつけたら終わりだ。でも、もう出るしかない。まさに人生を賭けた瞬間だった。

 
猛ダッシュ中にチラっと相手を見たが、おばさんだった。もし相手が妙齢の女性で大声を挙げられていたらと思うと、今も背筋が凍る思いである。

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