二次リーグC組最終戦のブラジル−イタリア戦。この事実上の決勝戦の舞台となったのは、スペイン第二の都市バルセロナである。
バルセロナは黄色いユニフォームを着たブラジルのサポーターであふれ返っていた。彼らは、「ペレらで優勝した70年のチームより上。優勝は間違いない」とブラジルの勝利を信じて疑わなかった。
事実、ブラジルはこれまでの4試合を全勝、得点13、失点は3。チーム最多得点はMFのジーコの4点。そして、バックのオスカール、ジュニオールらも得点を挙げるなど7人の選手が得点しており、どこからでも得点できる多彩な攻撃力を誇っていた。
一方のイタリアは、ここまで4試合で得点4、失点は3。一次リーグなどは、0−0、1−1、1−1の3分けという体たらくであった。
イタリア不調の最大の原因は、エースのロッシの絶不調にあった。国内リーグの八百長疑惑で出場停止を食らったことからロッシには2年間のブランクがあったのだった。それでもイタリアのベアルツォット監督は、自分が見い出したロッシの得点感覚の復活に賭けていたのである。
誰がどう見てもブラジルが絶対有利。ましてや得失点差で上回るブラジルは、引き分けでも準決勝進出が決まる。
イタリアは勝つしか次の道が切り開けなかったが、イタリア得意の戦法は、相手に攻めさせてのカウンター攻撃である。しかし、この試合では攻めに出る必要に迫られていた。
予想通り試合はイタリアが攻めに出た。一方のブラジルも一歩も引かず、これまで通りの攻撃を展開してきた。
試合前、イタリアでプレーするファルカンが、「イタリアはカウンターがうまいから、あまり攻撃的に出ない方がいいでしょう」と進言したが、テレ・サンターナ監督とキャプテンのソクラテスは、「君は何を言っているんだ。ブラジルにそんなサッカーはない」と、ファルカンの申し出を一笑に付したという。その言葉通りブラジルは最初から勝ちに来たのである。
※事実、テレ・サンターナ監督は、ワールドカップ前に7戦全勝で優勝すると宣言し、それがファンから絶大な支持を受けていた。また、ソクラテスも、ドゥンガのことを「守ってばかりいるのが能じゃない」と非難するなど、攻撃を重んじる性格だった。
試合は大方の予想を覆して、試合開始5分、ロッシが先制点を挙げる。それは、左サイドバックのカブリーニからの見事なクロスを完璧なヘッドで合わせた得点であった。
これでゲームが一気に白熱した。ブラジルはまずは同点にすべく両サイドバックのジュニオールとレアンドロがウィングのポジションを取るなど、より一層攻撃に出てきた。
イタリアの守備は伝統的に堅いことで有名である。この大会も守備を固めて負けないサッカーを展開してきた。
この試合では、エースキラーのジェンチーレをジーコのワンマークに当て、CFのセルジーニョにはコロバティ、LWのエデルにはオリアリをマークにつけ、最終ラインに冷静沈着なスイーパー・シレアを置くという守備網を敷いてきた。そして、最後に立ちはだかるのが鉄壁のゴールキーパー・ゾフ。果たして、ブラジルはこのイタリアの厚い守りを突破し、同点にできるのだろうか?
しかし、さすがはブラジル。ジーコがジェンチーレに絡まれながらも、右サイドを走り込むソクラテスの足先にピンポイントパスを通した。ここでソクラテスが右足を一閃。ゾフの堅塁を突破したのだ。それはイタリアが得点を挙げて5分過ぎのことであった。
これでイタリアは苦しくなった。思惑通り先取点は取ったが、これはブラジルの立ち上がりの隙きをついたもので、イタリアの攻撃力ではもう1点をブラジルから取るのは困難と思われたからである。
ところが、前半の半ば過ぎ、思わぬ形で勝ち越し点がイタリアに入る。
ゴールキックを自陣で受けたセレーゾが、味方が誰もいない味方ゴール前へボールを出してしまったのだ。これをロッシが拾い、ブラジルゴールにこの日2点目となるゴールを決めた。
セレーゾのミスを取り返すべく、ブラジルはさらに攻撃を仕掛けていった。マイボールになるとMFと両サイドバックが一斉に攻撃に上がるぶ厚い攻めを展開した。
しかし、CF・セルジーニョが肝心なところでシュートを外すなど、なかなか得点には至らない。こうしていつの間にか試合はイタリアペースとなり、1−2のまま前半が終わった。
果たしてブラジルは同点に追いつき、さらに勝ち越すことができるのだろうか?
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