後半に入るとブラジルの攻撃はより一層激しさを増してきた。
まず、ジュニオールとの壁パスから抜け出したファルカンが際どいシュートを放つ。これは惜しいところでゴールからそれた。ゾフがきちんと前に出て来てシュートコースが狭めたことがファルカンのシュートコースをわずかに狂わせたのであった。
その数分後、ジーコから40mものパスが中央を走っているセレーゾに通った。ここでセレーゾが渾身のシュート。しかし、これもゾフが身を挺して防いだ。
このゾフのプレーには解説の岡野俊一郎氏も、「ナイスプレーですねぇ。キャプテン、立派ですよ」と感嘆の声を挙げた。
その後もブラジルは攻め続けるが、セルジーニョの緩慢なプレーなどもあり、得点できない。
それにしても、この試合のセルジーニョは酷かった。前半にジーコがゴール前で決定機を迎えた時には、横からボールをかっさらい、自らシュートを打つが外してしまった。
また後半15分過ぎには、セレーゾがヘディングで絶好球を配給したのに、シュートを空振りするという醜態をさらした。この時も完全に1点もんだっただけに、セルジーニョのクソプレーは実に痛かった。
※元々セルジーニョは、ケガをした若きストライカーのカレッカの代役であり、周囲からはあまり期待されていなかった。現にテレ・サンターナ監督も、「セルジーニョには得点を期待していない。中盤の4人が得点するための囮になってくれれば十分だ」と公言していた。
この試合のセルジーニョの出来は、10点満点で4点がいいところであったろう。今まではセルジーニョが多少間抜けなプレーをしても目立たなかったが、このゲームにおいてブラジルの弱点がセンターフォワードにあったことが露呈したのであった。
試合はそのまま後半も半分を過ぎ、ジェンチーレのマークに手を焼いたジーコがトップの位置に張り付くなど、次第にブラジルにも焦りが出てきた。
しかし、後半23分、ジュニオールからパスを受けたファルカンがスルスルっと上がり、ゴール前で一瞬フリーになり、ペナルティエリアの外から左足を振り切った。
そして、糸を引くようなシュートがイタリアゴールに突き刺さった。
ついに2−2の同点。狂喜乱舞するブラジルベンチ。頭を抱えるイタリア選手。これで誰もがブラジルが準決勝に進出すると思った。
※ファルカンがゴール前で一瞬フリーになったのは、ファルカンがボールを持った時、セレーゾが右サイドを走り、セレーゾの動きにイタリアDF陣が注意を払わされたからである。
ブラジルは同点に飽き足らず、なおも攻めに出る。動きの悪かったセルジーニョに代え、ソビエト戦で活躍した右のウィングのイシドロを入れ、ソクラテスをトップに上げて攻めの強化に出たのである。
そして、ジーコ、ファルカン、エデルらがシュートの雨を降らせる。これらは惜しくも点にならなかったものの、ブラジルは圧倒的にボールを支配し続ける。
そんななか、イタリアが30分過ぎ、久々にカウンター攻撃を見せた。しかし、それも最終ラインでボールを奪ったセレーゾがキーパーにヘッドでパスして難を逃れたように見えた。
ところが、この時ボールが微妙にゴールラインを割っており、イタリアのコーナーキックとなった。
これが後半初めてのイタリアのコーナーキック。それからして、いかに後半ブラジルが攻めていたかがわかる。
そして、そのコーナーキック。コンティが蹴ったボールをブラジルDF陣が中途半端にクリア。そこをタルデリがシュート。そのボールはブラジルDFに当たり、ロッシの前へ。それをロッシが逃すはずもなく、またまたイタリアが3−2と1点をリードした。
これでロッシはこの試合でハットトリックを達成。今までの無得点がウソのような出来であった。
こうして、またまたブラジルが追う展開となったのである。
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