駐車場事件

 
 その日は朝から気合が入っていた。それは、事前に写真を一目見て相手を気に入っていたからだ。

 その日は車で行くことにした。以前友達に紹介された女性に、「休みの日はドライブとかしているの?」と言われ、「いや、免許持ってないんで…」と答えたところ、相手があきらかに軽蔑した表情になり、それっきりになったことがある。それで一念発起して免許を取ったのだった。

 当時は免許取り立てだったが、相手に少しでもいいところを見せたい思い、車で赴いたのである。もちろん、初心者マークをはずして。
しかし、それが大魚を逃す原因になるとは、その時は知る由もなかった。

 実際に会ってみたら写真以上にきれいで、しかも巨乳(別に巨乳は趣味ではない)。話せば性格も悪くない。
言ってみれば、顔・スタイル・性格が3つ揃った女性版・ミラクル3だった。

 それにしても車というのはいい。適度なツーショット空間になるうえ、相手が正面に来ないから舞い上がっても、それをある程度隠せるしな。

 当日は出だしから順調だった。車中で適当に笑わせて、サテンではマジな話しをして、「これは硬軟自在のいい展開」と思った。

 それで夕食に誘ったらOKだったので、ますます手応えを感じた。わしの経験では、どちらかが気に入らないと、一緒に夕食ということにはならない。

 夕食する場所へも車で行こうと思い、歌舞伎町の駐車場に戻った。それまで駐車場に車を入れる際は手間取りながらもバックで入れていたのだが、その手間取る様を見られたくなかったので、その日は頭から入れていた。

 しかし、これが失敗だった。車を出す際、変なところでハンドルを切ってしまい、隣に停めてあった車に思いっ切りこすってしまった。それで、わしは完全にパニックり、わけがわからなくなった。

 免許取り立てで、こういう時にどうしたらいいかうろたえまくっていたところ、相手の人はわしが黙って行ってしまうと思ったようで、「とりあえず、駐車場の管理人に事情を説明しましょう」と言ってきた。

 それで、駐車場の管理人に免許証を見せて、こすった車の持ち主に自分のところに連絡してくるように頼んだ。当然のことながら、夕食どころではなくなった。そして、その人とはそれっきりになった。

 その後、こすった車の持ち主から、ついぞ連絡は来なかった。場所がディープ・歌舞伎町だっただけに、その車が盗難車だったとか、やばい事情があったのかもしれんな。

 なぜ、見栄を張って車を使ってしまったのだろうか? 遅かれ早かれ破談になっていただろうが、こうして当時のことを書いていると、改めて「バカをやってしまった」と思う。
まさに「後悔先に立たず」だ。

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